日本神経学会から戻ってきて、数日が過ぎた。初めて、脳の学会へ参加し、この世界の大まかな姿が少しずつわかってきた。私見も入っているが、脳の病気について書きたい。
今まで高血圧、高脂血症、糖尿病といった、血管の疾患が自分の仕事の中で大部分を占め、合計7年近く、これらの疾患と接してきた。
これらの疾患に特徴的なのは、
高血圧=脳卒中、高脂血症=心疾患、糖尿病=目の病気、腎臓疾患、足の切断
といった。病気がどのように進むのかある程度、予想することが出来る(これを、学術的には「病気の自然歴」いい、疫学という手法で解明していく)ことだ。
薬を開発する際には、目的がはっきりしていると検討しやすいので、循環器は比較的簡単に臨床試験も組める。もちろん、循環器系の薬は患者数が多いので(数千万人)お金になる。ということで循環器での薬はどうしても多種類になる。
また、もう一つ例としてがんについても、がんを縮小させるか、死亡率を減らすのか?という点で明確。臨床試験は組みやすい。そして、ニクソン大統領からアメリカでは何百億とがん研究に対する投資を行った。そのことから基礎研究が飛躍的に進歩(ある研究分野にお金が投じると研究は飛躍的に進む)。がん遺伝子の発見につながり、どこの分子狙ったらいいのか?明確になりつつある。もちろん、まだその狙う分子はまだごくわずかしか見つかっていないが、分子を狙った、分子標的薬は現在の薬の分野で最先端だ。恐らくこれからもいい薬がでるだろう。
ただ、脳になると話は別だ。
例えば、ルー・ゲーリック病と呼ばれる、全身の筋肉が硬直し最終的に呼吸困難に陥り死にいたる病気は、一般に運動ニューロンが障害されるが、
なにを見れば(つまり目的は何におけば)治療できたといえるのか?
どのように病気が進展するのか?
などについてはほとんどわかっていない。脳は、脳幹、小脳、大脳、延髄など、全身の働きに関わっている。そのため、障害がどこにおこるか?によってその後の人生も変わるので、病気がどのように進展するのか予想するのが難しい。それが、治療の開発を遅らせるのだ。ちなみに、この病気は、未だ治療薬は1つ。これからといったところ。
製薬企業にとって最後の大きな山になりそうな脳神経の疾患。これは一つのフロンティアであることは間違いない。今後どのように動くのか?見届けたい。
先日のタロット練習会でご一緒した、紫苑です。
ご意見、興味深く拝見しました。
例に出された疾患については、エンドポイントが設定しにくいのは、オーファンといった面が大きいのかな…と思いました。
「進行の抑制」にしろ「根本治療」にしろ、疾患自体が解明されていないのでエンドポイントも設定しにくいだろうと。
同じ「脳」でも、精神疾患はそれなりに開発が行われているのではないでしょうか。
それこそ、「疫学」が充実しているかと思います。
因みに今度の仕事は「脳」関連なのですが、循環器系です。
投稿情報: 紫苑 | 2011/05/26 22:29
コメントありがとうございます!
この文章を書いたのは、あくまでも専門家ではない人向けだったので、説明不足のところがありましたね。
脳の疾患の場合、神経変性疾患(今回取り上げたALS、パーキンソン病、アルツハイマー病、SBMA)などのように病気の自然歴のわかっていない、さらにバイオマーカーの特定できない(すなわちサロゲイト・エンドポイントの使えない)疾患と、多発性硬化症、脳卒中のようにある程度自然歴のわかっている疾患に分かれると思います。私は、多発性硬化症の薬を開発・販売する会社にいるので、紫苑さんのご意見もよくわかります。
一方で、今後、ALSの開発を進めるので、その情報収集を行っていたときに、わからないことがほかの分野より多いことに気がつき、今回ブログに書きました。
投稿情報: 大塚 英文 | 2011/05/27 12:46