2003年まで最先端の免疫分野で研究をしていたため、この分野に派生するいろいろな情報を入手できる立場にいた。その中でも、非常にわくわくしたのが、自然免疫の世界。恐らく、この分野で近いうちにノーベル賞の受賞があるだろうと思っていたが、予想よりも早く医学生理学賞の受賞が決まった。
免疫分野でこの賞を受賞するのは、1996年以来、15年ぶり。日本人も、例えば、大阪大学の審良静男教授も大きく貢献したので、受賞することが予想されていたが、残念ながらリストの中に入ることができなった。
外部に接している皮膚や口や鼻などから異物(細菌、ウィルス)などが入ってくると、どのようにその情報が、免疫の中枢(獲得免疫、一度かかったら次はかからないという情報をもつ細胞群)へ伝わるのか?例えば、ワクチンを投与するときには必ず、免疫賦活剤(アジュバンド)を混ぜる。そして、そのアジュバンドにより免疫の働きを活性化し、ワクチンを働かせるのだが、その理由がわかっていなかった。
実は、樹状細胞がその一端をにない、その細胞にさまざまなアンテナ(受容体)を出しておく。細菌ならば、細菌専用のアンテナ、ウィルスならばウィルス専用など。このアンテナこそToll like receptor (TLR)であるが、その情報をつかむと、この情報を免疫の中枢に送り、免疫全体が活性化されるわけだ。
樹状細胞は、自然免疫という、獲得免疫のような特異的に狙いを定めて攻撃するものではなく、不特定多数に攻撃することが最初いわれていた。今回発見された成果により、自然免疫にも、細菌やウィルスによってある程度、情報を選別して、獲得免疫(免疫の中枢)に情報を送るという、ある意味で監視の目があるらしいことがわかった。
今回樹状細胞とTLRの発見がノーベル賞対象となったのだが、TLRは最初、ハエの発生に関わる遺伝子で、別のノーベル賞の対象になったもの。それが偶然にも免疫に関わる事がわかったのだ。
私個人としては、免疫の知識が飛躍的に進んだのが、1990〜2000年代にかけて。これらの成果をどのように今後ヒトへ応用させるのか?恐らく、感染症への対応や免疫の中枢への働きかけが可能なので、がん治療への応用となると思うが、見守っていきたいと思っている。